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松原市教育委員会
提供:日本教育新聞社
ねらい・指導・評価、子どもの立場で確認
大阪府松原市教育委員会では、教職員のパソコン研修に模擬授業形式の新しいスタイルを採用、3月25日に市内の小学校で第1回目の講座が開かれた。これまでの研修で教職員の基礎的なスキルが向上してきたことを受け、パソコンを授業の改善に生かすためのポイントを、より具体的に体験してもらおうと企画されたもの。初回の題材はパンフレットづくり。子どもに身に付けさせたい力の検討、パソコンを使った制作、さらに相互評価まで、実際の授業の流れに沿って行われた研修の内容を紹介する。

本物パンフの工夫探る
「授業を体験しよう(パンフづくり)」と題した今回の講座には、小中学校の教員16名が参加。谷口一登教諭(金沢大学教育学部内地留学生)、富山県砺波市立鷹栖小学校の林誠教諭、和歌山県かつらぎ町立大谷小学校の山田真稔教諭の3人が講師を務めた。

まず林講師が、パンフづくりを授業のなかでどう位置付けるべきか、子どものどんな力を育てるべきかといった実践の目的を、情報教育や国語科との関連の面から解説。
林講師は、パンフづくりを通じては調べる力、まとめる力、伝える力など、情報活用の実践力そのものとも言える多様な能力を育成することが可能だが、「育てる力を意識しないと『お絵描き』で終わってしまう」と強調。
指導面では、子どもたちに「相手意識」(誰に伝えるか)と「目的意識」(何を伝えるか)をしっかり持たせることが重要と指摘。小学校3年から6年までの国語科では伝える力の育成を目指す単元が設定されているため、「総合的な学習だけでなく国語科との合科的な実践としても扱える題材」とアドバイスした。

続いて谷口講師の進行でパンフづくりがスタート。ここからは実際の授業を意識した模擬授業形式での進行となった。

今回制作するのは、小松市立少年自然の家をPRするA4サイズ一ページのパンフレット。まず、同自然の家が使用している実物のパンフレットを教材に、文章や写真、レイアウトなどでどんな工夫がされているかについて全員で話し合った。
谷口講師は、本物のパンフからどんな工夫点を見出せるかがその後の制作にも影響するため、「この話し合いの過程は授業でも大切な部分」と説明。
参加者からは、「文章が手短にまとめられている」、「四季折々の風景を写真で見せることでどの季節でも楽しめそうな印象を与えている」、「文字が読みやすい色使いになっている」、「キャッチコピーに青や緑などを使い、空や自然のイメージをつくっている」といった意見が出た。

参加者の発言を受け谷口講師は、優れたパンフレットの条件として、キャッチコピーやレイアウト、配色などで「読み手を一目で引きつける工夫」と、「伝えるターゲットを絞ること」が重要と解説。授業でもこの点に留意し指導する必要があると付け加えた。

PC使った表現楽しむ
続いてはパンフづくりの具体的な計画を立てる作業。用意された作業シートに沿って、読ませる対象、取り上げるテーマと訴求ポイント、キャッチフレーズなどを各自で考え、大まかなレイアウトを描いたうえでパソコンを使った作業に移った。

制作には画像編集ソフト「Adobe Photoshop Elements2.0」を使用した。制作手順は簡単で、グラデーション(または白地)の背景を準備し、用意された写真から使いたいものを選んで切り抜いて並べ、キャッチコピーや写真の説明文などを入力し書体や文字サイズを調整するだけ。各自ラフを見ながら制作する一方、初心者の先生方は谷口講師のレクチャーに沿って作業を進めることにした。


全体的に、自然のなかで生き生きと遊ぶ子どもを表現したいという思いから、子どもの写真をメインに使う作品が目立ち、吹き出しを付けて台詞を入れるなどの工夫も見られた。画像編集ソフトの操作は初めてという先生方は写真の切り抜きや合成に興味を持ったようで、自然の家の看板を切り抜いてタイトルに使ったり、切り抜いた魚の画像を川の風景に合成するといった楽しい表現もあった。
またキャッチコピーを目立たせる工夫として変形や影付けなど特殊加工に挑戦する参加者も多く、講師やサポートスタッフには「文字の色を変えたい」「写真の楕円に沿うように文字を配置したい」といった質問が数多く飛んでいた。一方、自ら「発見」した操作法を隣の先生に教えるなど、子どもの目線で体験できる模擬授業らしいシーンも見られた。

制作が一段落したあとは、各自の作品を相互評価した。今回は時間の都合もあり、プロジェクターで投映された各作品を全員で見ながら、指名された一人が口頭でコメントを述べる方法で評価。各作品に対しては、事前に検討した「いいパンフの条件」を踏まえ、「自然の家の『ウリ』の部分が写真で上手く表現されている」、「『カニはいるかに〜?』というキャッチコピーが楽しい」、あるいは「文字と背景色が重なっていて読みにくい」といった意見が出た。

参加者は最後に、パンフづくりに取り組んでみた感想や作品の出来栄えなどを自己評価カードに記入し、約3時間のメニューを終了した。
メイン講師の谷口教諭は今回の研修について、「国語科と情報教育の関連など重要な部分をしっかり解説できた点がよかった」と振り返る一方で、授業で扱う際のポイントとなる評価については、方法をさらに検討する必要があると語る。

現状では、今回のように一つの作品を全員で鑑賞しコメントを述べる方法と、各自の意見を付箋紙に記入しプリントアウトした作品に貼る方法の二通りが考えられるが、「付箋紙方式は評価してもらった実感を持てる反面、同じ作品に対する他の人の評価を把握しきれない。全員で鑑賞すれば評価を共有できるが、多角的な意見を引き出す工夫が必要。授業では、それぞれの良い部分を生かした評価方法を検討する必要がある」と話している。

ニーズ捉えた実践的研修を
松原市教育委員会の永尾明・指導主事は、今回の模擬授業形式の研修を採用したポイントについて、「操作教育ではなく参加型で、パソコンを使った作品づくりから評価まで一連の流れが体験できる点が魅力だった。パンフづくりは、図工や総合のほか学校間交流やプレゼン活動への発展も考えられる実践的な題材でもある」と話している。

同市では、春・夏の全体研修のほか、各校の要望に応える学校別研修も実施。研修メニューも、学校現場のニーズや教職員のリテラシーに合わせて充実させてきた。
こうした取り組みの成果もあり、「先生方のリテラシーは年々高まっている」と永尾指導主事。「研修も、ソフトの操作を教えるだけでなく、それを授業でどう生かし、子どもにどう教えるのか、より実践的なヒントを提供する役割が求められている」という。

こうした背景もあって採用した今回の研修。参加者の反応については、「模擬授業ということで、先生方も指導のポイントや授業の組み立て方について検討できたのではないか。模擬授業の通りに指導するのではなく、ここがいい、ここは変えたほうがいいなど具体的なヒントが得られたと思う」と話す。

普通教室の授業でもパソコンやインターネットの活用が広がっているいま、学校現場ではこうしたツールの教科のなかでの活用法が課題になっていると永尾指導主事。「情報機器を活用して授業をより分かりやすくするための具体的なアイデアを検討する必要がある。教委としても研修の場を通じ、この部分をサポートしていきたい」と話している。
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