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著作権ワンポイントアドバイス
第7回 【情報リテラシー】
前回まで、「情報モラルの森」を構成する著作権、セキュリティ、プライバシーの説明をしました。今回は、4つ目の木である「情報リテラシー」について、私たちの考えをご説明します。

インターネット社会の情報リテラシー

情報リテラシーとは、コンピュータ利用技術を身につけ、情報を積極的に活用できる能力のことと理解されています。いわば「情報社会を生きる力」です。情報教育というと、この「情報リテラシー教育」を指すことが多く、内容はパソコンを使った情報検索やメール送受信の技術などが中心となっているようです。しかし、情報リテラシー教育を、「操作技術の習得」に切り縮めてしまうと、その本質を見失いがちです。もちろん、情報を活用するためには、情報機器を操作する技術が必要なのは当然です。しかし現在の情報機器はパソコンが主流ですが、5年経てば電子手帳や携帯電話に代わっているかも知れません。10年後には今のパソコンの操作方法は全く役に立たなくなる可能性もありますから、そればかりに身を入れても仕方ありません。インターネット社会の情報リテラシーとは、あふれる情報を評価、判断して活用する力、そして、他人とコミュニケーションする力である、と言うことができます。

情報機器を使って入手できる情報は洪水のようにあふれています。情報社会の参加者にとって、自分にとって本当に必要な情報は何か、情報の信憑性はどうか、真偽はどうか、といった批評的精神が不可欠です。また、情報は何らかのメディアを通過している時点で、すでに選別・変形されていることを知るのも重要です。「その情報を出した」こと自体にも意味が含まれているのですから。また、コミュニケーションとは、他人と意思疎通を図ることだけではありません。コミュニケーション能力には、まず、自分のアタマで考え、オリジナルな考えを持ち、それを自分らしい方法で表現する力が必要なのです。「自分の考え」がなければ、「表現」はありえません。「自分の考え」とは、つまりその人の個性です。コミュニケーションとは、自分の個性を自分らしい方法で表現し、かつ相手の個性を認め受け入れることです。

情報機器を利用したコミュニケーションには限界も

一方で、情報機器を利用したコミュニケーションには限界があることを知ることも重要です。例えば、実際に会って話をすれば五感をフルに使って相手を理解しようとするのに対し、メールだけを使ったコミュニケーションでは、相手を判断するのは文字になった言葉だけです。会えば相手の言葉の内容だけではなく、声の高低や震え、視線や表情を含めすべてを総合的に判断できることが、メールでは限られます。しかも、メールで使われる名前さえハンドルネームであって本名や住んでいる場所など本人を特定する情報が圧倒的に少ないのが現実です。もちろん、名前や住所を伝え合うこともあるでしょう。しかし、悪気があるかないかに関わらず、その気にさえなれば平気でウソをつける環境にあることは間違いありません。

今、教育現場で最大の問題と先生方が仰る出会い系サイトの問題は、この、相手の正体が分からず平気でウソをつけるネットワーク独特の環境で起こっています。出会い系サイトに起因する事件ほどでなくても、文字だけのコミュニケーションの限界によるトラブルはは、そこここにあります。例えば、掲示板でよく起こる喧嘩もその一つ。文字に人柄は現れると言われますが、顔はおろか、どこの誰かも分からない人たちが、ただハンドルネームだけの乏しい個性で議論になれば、ちょっとしたニュアンスの受け取り方の違いが大きな諍いに発展しがちです。掲示板だけの諍いで済めばまだしも、プライバシー侵害、名誉毀損、脅迫までエスカレートすれば犯罪になってしまいます。文字だけだからこそ慎重な言い回しや相手への思いやりが必要なのでしょうけれど、それが雑になってしまいがちなのも、ネットワークの特性でしょう。

コミュニケーション手段を判断する力を

メールの書き方といったハウツー情報もよく見かけますが、これも鵜呑みにするのも賛成しません。元来、メールは、電話のように相手の時間に割り込むことがない、控え目でしかも肩を張らないメディアでした。それがビジネスに利用され始めてから、手紙の流儀が持ち込まれ、昨今のハウツーを踏襲したやや形式的な文面をよく見かけるようになっています。しかし、これも、どちらがいいという類のものではないと思います。それは、肩の張らない表現は、実はメールを送受する双方がよく知ってる間柄である場合に適しているでしょうし、形式を整えるのは、初めてメールを出すような相手に対する場合など、そのときどきで方法が違って当然だからです。自分の考えを相手に伝えるため、相手の立場を慮って表現するにはどうすればいいか。そう考えることこそが重要なのではないでしょうか。

他人とのコミュニケーションに際し、情報機器を使ったメールや掲示板のメディア特性を理解し、そのときどきに応じて、どのメディアを使うかも含めて判断する能力も、情報リテラシーだと思います。メールや掲示板に代表される情報手段のそれぞれの特性と限界を知りつつ、どう使いこなすか、その基本姿勢こそが求められています。結果、相手によっては実際に会いに行く、という選択肢も当然あっていいし、私たちはむしろ、そういう姿勢に賛成します。相手や用件に応じて、コミュニケーションのためのメディアを選択する能力そして相手を思いやりつつ自分の個性を表現する力を、ぜひ養って欲しいと思います。

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