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Vol.1 慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部  1 2 3
 
話は替わって、情報教育についての取り組みについてうかがいたいのですが、その前に、この湘南藤沢のキャンパスには、慶應義塾大学の学部がありますね。それも時代の花形、環境情報学部があります。進学を志望される生徒の数は多いですか?
渡辺:ここから環境情報学部などに進学していく子たちは大活躍していますし、同じキャンパス内の学部に進学を志望する生徒は確かに多いですね。
 この湘南藤沢中等部・高等部から大学部に進んでいく生徒たちは、プレゼンテーションやディスカッションが上手い、パソコンができ、英語もできる。加えて性格的にも明るく、社交的といった特徴があるようです。
社会で活躍できる人間としては理想的ですね。そうするとこの湘南藤沢校は、いわゆる実践型の人間を育てる学校ともいえると思いますが。
渡辺:そうですね、どちらかといえば、慶應義塾の中でもこのキャンパスにあるということは、そういった特徴も持っているかなと思います。
 大学を例にとれば、たとえば三田にある経済学部では、まずしっかりと学問の体系を身につけて、そこから世界の重要なテーマに取り組んでいく。いっぽう湘南藤沢の環境情報学部などでは、社会にとって重要なテーマに対して、まずはプロジェクト型で取り組んでいく。それに必要な学問を組み合わせて学んでいく。そういった傾向があるでしょう。ですが、どちらが良いというわけではありません。どちらの手法にも利点があると思います。
ではそういった背景も踏まえた上で、情報教育への取り組みについては、どのようなことを重要視されていますか?
渡辺:我が校ではこの10年間、すでに他の学校に先立って、情報化社会というものに取り組んできました。ですのでこれからの新カリキュラムに対しては、その積み重ねから、さらにもう一歩先に進みたいという気持ちですね。
 ですからこれまでも「情報」という時間を設けてきましたが、これからは「情報」単独の時間だけではなく、社会や国語、英語など他の科目においても、教材作成の段階から、よりいっそう情報との接点を深めていきたいと考えています。
つまり「情報」が、普通科目のベースになるべきだと。
渡辺:そういった面もあるでしょうね。いわゆる情報を「情報」という時間の中で行うのではなくて、それはそれとして非常に重要であると同時に、さまざまな教科の中でも活かされていくべきだと。現在、情報の教員と他の教員とのコラボレーションも積極的に進めているところです。また10年前は、このキャンパスはまさにどこにもない情報関連施設でしたが、現在の状況を考えるとそれなりに不充分な面も出てきましたので、IT化という部分で充実を図っていく予定です。
では、田邊先生に、具体的な授業についてうかがいます。たとえば今日拝見させていただいた中等部三年生の「情報」の授業では、クラシック音楽(ムソルグスキーの『展覧会の絵』)を生徒に聴かせて、それでイメージした絵を自由に描いてもらうといったことが行われていましたが、そこにはどのような狙いがあったのですか?
田邊則彦(以下、田邊):たとえば“お絵描きソフトで何かを描いてごらんなさい”といった課題を無雑作に出したとしても、子どもたちはどういう絵を描いていいのか、なかなかイメージが膨らんでこないんですね。仕掛けが必要なんです。
 だから今日のようにたとえば音楽を聴いて、音楽のメッセージ性というもの、あるいは『展覧会の絵』というような、子どもたちにとって理解しやすいテーマ。それを聴いて、そこからイメージされる色彩であるとか、カタチだとか、そういったものをキーボードやマウスなどを使いながら、コンピュータという道具で表現させようと。そういった狙いがありました。
教室内
教室内
教室内 教科 「情報」 の授業風景。ムソルグスキーの『展覧会の絵』を聴いたのち、生徒たちはひとり一台用意されたパソコンを使い、自由に絵を描きはじめた
なるほど、コンピュータという道具で、音楽と絵をくっつけてしまおうということですね。すると「情報」の授業といっても、それは単にコンピュータの技術的な習得が目的ではなく、むしろもっと深い、感性や情操の部分に関わっている授業ということでしょうか?
田邊:そうです。表現というのはデジタルな表現もあればアナログな表現もありますよね。コンピュータが得意とするのはデジタルな表現。そのデジタル表現というのは、ここ数年の間に非常に身近なものになってきていますが、ではデジタル表現のメリットとはどんなものなのか。
 それを子どもたちに体感させながら、自分というものを他の人に知ってもらうためには、どう使っていったらいいのだろうということを知らせたいのです。
そして子どもたちの多様性を考えると、音楽という表現でそれを行う子もいれば、絵画という世界で試す子もいる。あるいはプレゼンテーションを行うために、デジタル表現のさまざまなテクニックを使っていくという子もいるでしょう。子どもによっていろいろだと思うのです。
 ですから彼らに対して“こんなこともできるんだよ”と紹介していくことが、現在の「情報」の授業のひとつの大きな役割だと思っています。
お話をうかがっていると、自分を表現するという点が、かなり重要なポイントのように思えます。「情報」の現場に立つ田邊先生の目から見て、情報教育とはどのようなものだと感じていらっしゃいますか?
田邊則彦先生
情報教育担当 田邊則彦先生
(たなべ・のりひこ)
田邊:1992年にこの学校はスタートしたのですが、実はそのときに、情報に関わる授業の名称をどうしようかと検討したことがあります。そして話し合いの中から、コンピュータ、情報処理、情報科学、情報という4つの選択肢が出てきました。
 で、まずコンピュータを教えるのは情報の授業ではないと、次に情報処理も過去の経緯からして違う、つまり情報を処理するのが目的ではない。では情報の科学ですが、情報をサイエンスのところまで子どもたちを導いていくには、その当時、カリキュラムが整っていなかった。
 というところから「情報」という科目の名前にして、情報をいろいろな形で、いろいろな角度から扱っていける教科に位置づけておいて、そこで模索しながら情報教育の中で何を目指していくのか。どういった手順で、子どもたちに力をつけさせていけばいいのかということを、研究させてほしいというところからスタートしたんです。
 現在、コンピュータを扱うコンピュータリテラシーは当然やっています。それからネットワークを使う際の約束事であるネットワークリテラシー。データって何なのかなといったデータリテラシー。そしてメディアの特徴をきちんと考えて、そのメディアに対してどういう風につきあっていかなければいけないかという、メディアリテラシーもやっています。
 そこで培った力をいろいろな所で使ってごらんなさい、というところで、我々の情報教育はひとつのまとまりを示していると思っています。
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