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キーワードで読む情報教育 6
情報活用の実践力
中川一史のキーワードへの道案内 【情報教育の位置づけ】
情報化の進展に対応した初等中等教育の在り方についての協力者会議では、情報活用能力を「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3つに整理して情報教育の柱として位置づける提案を行っている。この中で、「情報活用の実践力」とは「児童生徒が、自分にとってどのような情報が必要かを自分で判断し、 主体的に収集・表現・処理・創造し、受け手の状況などをふまえながら発信・伝達できる能力」を意味する。つまり、総合的な学習であれ、教科学習であれ、このような力はまさにベースとしてつけるべき力なのだ。
さて、情報活用の実践力を育てるための「調べて・まとめて・伝える」という一連の流れは、総合的な学習をはじめとして、社会科などのさまざまな活動において頻繁に出てくるはずだ。この「調べて・まとめて・伝える」力、さらにはコミュニケーションする力をどのようにつけていけば良いのだろうか?

1)調べたくなるような、まとめたくなるような、伝えたくなるような切実感のある課題を
特に総合的な学習において、いくら情報教育の視点をうめこんでいくことが重要であるといっても、たとえば「発表の仕方」とか「コンピュータの操作技能」というようなスキル(技能)にばかり着目されてしまう場合も少なくない。しかし、子どもたちにとって、何のために発表しているのか、なぜここでコンピュータを使うのかという必然性のかけらもなしに、ただ「訓練されている」のであれば、それは本末転倒な話だ。活動の課題が子どもたち一人ひとりにとって、切実な課題になっているかどうかの上に、情報活用の実践力やコンピュータの活用が問われるべきであろう。また、総合的な学習では、教師が予定していた課題とはちがった現実の問題に直面することもある。それらの課題を教師がキャッチし、どのように個々へのサポートをしたり、活動全体をコーディネートできるかという部分も重要だ。

2)「調べる」「まとめる」「伝える」は一巡してオワリではない
よく総合的な学習の活動計画案を見せていただく。それには、「調べて」「まとめて」「発表して」オワリ、という流れが実にきれいに「並んで」いる。しかし、本当に子どもたちの活動としてこれで完結するのだろうか?と思うことがある。もちろん、時間数は年間で限られている。次の学習活動が気になってきたりもする。しかし、実際の活動では、子どもたちの発表の場で、他の子やゲストティーチャーからいろいろな意見やアドバイスが出てきてきたり、他のグループの発表を見て自分たちの足りないところに気づいたりということが出てくるわけだ。つまり、発表をすることで、また新たな活動に展開していくことがよくある。そのような意味では、発表は必ずしも活動の終着点ではない。発表から、調べ直す・まとめなおすことの繰り返しがスパイラルにあがっていくような活動の流れを想定することも必要なのだ。

3)相手を意識した学習活動場面の設定

総合的な学習、特に「調べて」「まとめて」「伝える」ことが核にある活動では、いかに相手を意識した学習活動の場を設定できるかということが大きなポイントになる。例えば、みかん作りをする上で、同じようにみかん作りに挑戦している他地域の学校とインターネットで交流を行い、進捗状況の情報をやりとりしたり、意見交換をしたりする場合がある。こうすることで、相手との地域性のちがいに気づいたり、同じ目的をもっていることで共感したりすることがあるわけだ。また、みかん作りの専門家を交え、専門家としての厳しい眼で活動に関わっていただく…専門家が関わることで、子どもたちにはある種の緊張感が加わるわけだ。いい加減にはできなくなる。専門家をうならせるようなみかんを作るにはどうしたら良いのか真剣に向き合うようになる。このような場面があることで、調べたり、伝えるという行為が焦点化されてくる。

4)日常的な鍛え場面
学習内容もさることながら、一方で、発表したり聞いたりすることの時間を日常的に意識的にとっている先生もいらっしゃるのではないだろうか。例えば、朝の会で「1分間スピーチ」をしたり、教室にあるデジタルカメラで撮ったものを紹介する「デジカメスピーチ」などだ。どのように発表すると伝わりやすいかということを毎日少しの時間で良いから、クラスみんなで考える場を作るわけだ。このような試みは、発表する側だけでなく、聞いている子どもたちにとっても「どんな質問をすれば良いのか」について鍛えられる場になるのだ。また、「デジカメのとりかた」「インタビューの仕方」など、状況に応じてタイミングよく指導することも大事なことだ。

5)待ちの姿勢の大事さ
子どもが学習活動を行う上で、経験が少ないと失敗をしたり、適切に道具を選択できていなかったりすることがある。しかし、いつも教師が「それはこっちを選びなさい」「それはこうするの」と手や口を出してしまったら、子どもたちの大事な学びの場面を実は奪っていることになる。たしかに、うまくデジタルカメラでベストショットを撮れないかもしれないが、まずは撮ること自体が楽しくて自分でいろいろ試してみる時期も大切だし、撮れたものに対して最初はやたらめったら撮っていたものが目的を明確にしていくうちに教師や友だちのタイミングのよいアドバイスが得られるうちにだんだん「こういう場面を撮りたい」というところに意識がいくようになるかもしれない。このような試行錯誤の場をいかに保証できるかが重要なポイントだ。

6)つながりを抽出してゆく
このような力は、各学年での総合的な学習をはじめとする全教科のカリキュラムをにらみ、情報活用の実践力が育つ活動場面の「つながり」を意識しながら、学校の全体計画にうめ込んでいく必要がある。たとえば、6年生において各自のテーマに関する課題解決のためにインターネットで効果的に情報収集するためには、4年生ではある活動でインターネットを活用した体験をしている、といった具合にだ。しかし、ここで注意しなくてはならないのは、「はじめに技術習得ありきではない」ということだ。インターネットを活用できるようにと思うあまり、意味もなくキーボード入力の練習をさせられたのでは子どもたちもたまったものではない。技術習得をカリキュラム上に位置づけるのではなく、経験の蓄積を考えるべきなのだ。ある学年のある先生だけこのような力をどのように子どもたちにつけさせるかを考えていてもだめだ。子どもたちが6年間でどのような力がどんな活動の上でどのように育っていくのか、学校全体で考えていくべきであろう。

また、このような力は当然中学校の総合的な学習や技術・家庭、高等学校の総合的な学習や教科「情報」で資質的に上がっていくはずである。今後、このような力の育成の小、中、高を通じた縦のつながりを見通していく必要もある。
中川一史(なかがわひとし)金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授
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メディアの特性を意識した交流 中條敏江(石川県 松任市立東明小学校)
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