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授業報告【第11回】
パンフレット研究をする
授業のねらい

プレゼンテーションは、場数を踏むことが大切!とよく言われます。今回の取り組みの中で子ども達は、2回のクライアントプレゼンテーションの機会を得ました。特に、2回目となる最終版プレゼンテーションは、もうあとがありません。参観者も前回以上の人数です。このような場での究極の緊張感を乗り越えることで、子ども達のプレゼンテーション能力、伝える力をさらに高めることをねらいとしました。
授業の様子
  3分27秒  
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12月18日。いよいよ最終版プレゼンテーションの日です。ほとんどの班が、前回と同じ子をプレゼンテーターとしていました。1班のちかちゃんもプレゼンテーターとして、この日に向けて準備を進めてきました。最初は、3分間の発表内容を丸覚えしようと思いました。でも発表途中で頭が真っ白になってしまうと困るので、要点だけ覚えて、あとはアドリブでできるように練習しました。毎日、朝休みに友達とリハーサルを重ねました。また彼女は、自分の声が少し通りにくいことを気にしていました。それを克服するために、家で妹に遠く離れて聞いてもらって、声が届くかチェックする練習もしました。

あとがない最終プレゼン
がんばるちかちゃん
そして迎えた本番。1班の彼女は、発表順がいつも1番なので、人一倍どきどきします。何日か前に、テレビで放送していた「緊張をほぐす裏技」というのを試すことにしました。左手の薬指を、右手で握ったり離したりするというものです。試してみたけれど、まだドキドキしています。それを見て同じ班の友達が、「別に間違えてもいいよ!」とはげましてくれました。いよいよ、中川先生と北川氏が待つ部屋に入りました。前回のプレゼンテーションの時と比べて、参観者の数が明らかに多くなっています。それを見て、彼女のドキドキは頂点に達しました。でも「これから1班の発表を始めます!」とプレゼンテーションをスタートしてみると、ドキドキもどこかへふっとんでいきました。彼女は、「先生への訴えを強めた」「楽しんでできることを伝えたかった」ということを強調しました。そして、なんとか自分達のパンフレット案を採用してほしいという気持ちで、3分間のプレゼンテーションをやりきりました。控え室に帰ると、彼女はいすにドカッと座り込んでしまいました。手のひらは、汗でびっしょりでした。

ちかちゃんの発表に続き、2班、3班とプレゼンテーションが続きます。3班のつばさ君も、前回に引き続きプレゼンテーターとなりました。前回よりも芯のある声で発表しています。「僕達は中身のページにも自信があるけど、特に表紙で他の班と勝負したいです!」と、力強く締めくくりました。熱い思いがひしひしと伝わる、いいプレゼンテーションができました。

全ての班のプレゼンテーションのあと、審査会を持ちました。北川氏は「ある程度決めてきたんだけど、プレゼンを見てまた迷ってしまった!どうしよう・・・。」と、1位を決めかねておられる様子。クライアントが迷うということは、子ども達のプレゼンテーションが心に響いた表れです。指導者としては、とてもうれしい気分でした。ぎりぎりまで迷われたあと、「決めました!」と北川氏。その後、講評および審査結果の発表となりました。

まずは中川先生が子ども達に向かって、「どう?大変だった?」と第一声。すかさずつばさ君が「すごーく大変だった!こんなに頭使ったの初めて!」と返します。すると中川先生は「みんなのプレゼン、前回よりもすごく上手になったねぇ。私達の案はここがウリですから、採用してください!という気持ちが出てたよ。」とほめてくださいました。さらに「1班は表紙画像、2班はキャッチコピーがよかったねぇ!」とそれぞれの班の優れている点を説明されました。「でも、決めるのは私ではありません。アドビの北川さんが、アドビのパンフレットとしてはどれがいいかという視点で決めることになります。では、審査委員長の北川さんにかわります。」とバトンタッチ。北川氏の講評となりました。子ども達の間に期待と不安が入り混じった雰囲気がザワザワと広がります。中には、なぜか北川氏に向かって手を合わせて拝んでいる子も・・・!?子ども達の前に立った北川氏は、まずはじめに次のような言葉をかけられました。「最初にみんなにお礼を言いたいと思います。前回はすごく厳しいことを言いましたが、それにも負けずにがんばって、すごくいいパンフレットを作ってくれました。本当にありがとうございました!」それから、各班のパンフレットの講評にうつりました。北川氏はレイアウトの改善、わかりやすい説明の工夫、子どもの写真をたくさん使うアイデアなど、子ども達の努力のあとをきちんと評価してくださいました。もちろん、ホンモノパンフレットという観点から、まだ合格に達しない点もしっかり指摘されました。約25分間にもおよぶ、とても中身の濃い講評となりました。
 
北川氏による講評
涙がとまらないあかねちゃん    
 
ところが4班のあかねちゃんは、北川氏の話を聞きながら、だんだん心配になってきました。 「あ〜、もうウチの班はアカンわ・・・。それよりホンマにどっかの班選ばれてるんやろか?」 (標準語訳→「あ〜、私の班はダメみたい・・・。それより本当にどこかの班が選ばれてるのかな?」) そんなことを考えながら、彼女は泣き出したい気分でした。 ついに、北川氏から結果発表される時がきました。子ども達の顔が一瞬で緊張の表情に変わります。さっき北川氏に向かって拝んでいた子は、一層激しく拝んでいます。

「発表します! 1位は・・・・、4班です!」 「よっしゃ〜!!」 (標準語訳→「やった〜!!」) その瞬間、ドッと歓声とため息が入り混じった子ども達の声が、コンピュータ室に充満しました。立ち上がってガッツポーズをする4班の子ども達。よく見ると、あかねちゃんが洋服の袖でしきりに目をこすっています。目を真っ赤にして泣いています。

「ウソ!?ホンマ?信じられへん!やったー!!」 あまりのうれしさに、思わず涙があふれ出て止まらないあかねちゃん。そのあかねちゃんの様子が目に入ったのか、北川氏の目にも光るものがありました。会場中がとても感動的な雰囲気に包まれました。1班のちかちゃんも、4班のメンバーに拍手を送っていました。ちかちゃんは「選ばれなかったのはすごく残念だけど、4班のみんなは私達よりがんばったんだろうなぁ・・・。すごいなぁ・・・。」と思っていました。

最後に北川氏は、4班の案を採用した理由として、Photoshop Elementsがコミュニケーションに役立つ、また学校で大活躍するソフトであるということが一番強調できていた点を挙げられました。しかし北川氏は、「これで終わりではありません。ホンモノにするためには、あと少しやってほしいことがあります。4班の人は、他の班のいいところも全部集めて、一つのパンフレットに仕上げてください!」と締めくくられました。
 
担任のつぶやき
ブラッシュアップがおわり,素晴らしいパンフができあがりました。2回目のプレゼンテーションは,誰に・・・というところで,山本先生と相談をし,基本的には,前回の子どもに・・・ということになりました。ところが・・・
ある班の女の子がわたしのところへやってきました。この子どもは,とてもしっかりとした子でしたが,どちらかと言えば人前で発表することに苦手意識をもっている子でした。前回は,班のみんなから推薦を受けて発表者となっていました。その子が,普段見せたことのない涙顔でわたしに訴えました。
「先生,わたし,プレゼンもうやりたくない・・・。」
(えっ・・・・!)
担任としては,安心して任せられる子だと思っていたのでその言葉に大変驚きました。
「なんで?」
「だって,わたしら(同じ班の女の子)ばっかりがんばっていて,男の子達何にもしてへんのやもん。」
この班の男の子たちも授業中は担任の目から見れば一生懸命やっていたのですが,ちょっと休み時間にやらなければならないときなど,女の子に任せてばかりだったようなのです。また,プレゼンをした女の子にとっては,前回のプレゼンが大変なプレッシャーだったこともあるようです。そこで,すぐに,班の男の子も呼んで,お互いの正直な気持ちを出し合いました。すると,男の子も女の子の気持ちを分かり,自分たちが次のプレゼンをすると言いました。そして,ひとりの男の子が発表者として決まりました。

このことを通して,わたしはいろいろと考えさせられました。担任としては,この女の子が前回発表者に選ばれたことを内心喜んでいました。本人にとっては大変なプレッシャーであることは分かっていましたが,普段よい考えをもちながらそれを発表しないこの子に,少しでも発表することの良さや楽しさを感じるきっかけになればと思ったからです。けれども,本人はわたしが思っていたよりもストレスを感じていたのです。それが「拒否」として表れてきました。また,これとは逆に,2回目の発表者となった男の子は,普段ならなかなか発表の場に出てこないにもかかわらず,今回せっぱ詰まった話し合いのなかで自分から「やる」と言いました。どちらも,わたしには予想できなかったことで,班での活動の難しさと良さを同時に感じた一件でした
 
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