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キーワードで読む情報教育 22
美術とコンピュータ
レポート2
The End of 「CG反抗期」
鷲山 靖
(石川県 金沢大学教育学部 助教授)
鷲山 靖
子供の頃から反抗的だった僕は、再び反抗期を1995年に迎えた。CG反抗期だ、31才の時だ。なんなんだあのマウスは。手首のスナップは効かないし、筆圧を活かした線の強弱を表現できない、ニジミとボカシやカスレはどうするんだ、やたらコロコロ動いて、だいたい矢印と十字で絵を描くこと自体が問題だ。手元も観ずにモニターを見ながら絵を描いていると身体感覚が別次元にワープするじゃないか。密に勤務校のMacルームの教師用Macの優れもの描画ソフトをいじくったが、描画原理に違いはなかった。僕はCGを授業でやらないことをマウスの裏の球を人差し指でいじくりながら誓った。

31才の美術科教師のCG反抗期は、手口が巧妙だった。1995年4月にわざと中学生と高校生をMacルームに連れ込み、生徒用Macのペイントソフトで思い思いにCGを描かせ、これまでの画材による自分の描画と比較させ、感想を述べさせ、「CGは、なにがすばらしいのか」「CGは、なにがつまらないのか」を議論させたあと、僕の「CGそれほどおもしろくない論」を訴え、教え子全員をCG反抗期にいざなったのであった。

  授業の様子
  授業の様子
さて、7月になり、蒸し暑い工芸教室で木屑や金属を叩くうるさい音、サンドブラストの砂にまみれていると、冷暖房完備で絨毯・スリッパ履きのMacルームが恋しくなり、悪知恵が頭をもたげてきた。それは、蒸し暑い9月から冷房の効いたMacルームでCG以外の事を高等学校芸術科工芸の授業で展開し、その最後の授業を勤務校の教育研究大会での研究授業に設定する計画だった。題材は、グループ(4〜5人)のアピールしたい内容をMacとその周辺機器により画像(写真)と音声で編集してストーリー仕立ての映像作品を制作し、その作品を液晶プロジェクターでスクリーンに映し出し皆で鑑賞する内容である。ソフトはオーサリングソフトのグリーンと音楽ソフトのサウンドエディットを学校に購入していただき使用した。

この題材は、星一徹のごとく僕の美術科教育の基盤をその上のプライドもろとも二回転半させながら粉砕した。それまで授業中、生徒を自分の弟子のように見下し、作品の発想・構想段階から口をはさみ、さまざまな道具の扱い方や加工法の可能性を伝授し、時には技法を実演して見せながら背中越しに質問する生徒に「黙って俺のやることを見て技を盗め」と一蹴していた僕の毅然とした姿は、Macルームのどこを探してもいなかった。Macとデジカメ、スキャナー、フィルムスキャナーと各種ソフトの基本的な操作とその操作による基本的な参考作品の説明までは、よかった。すぐに教師用Macは、生徒用Macと比べ性能がめちゃくちゃ良く、高機能の画像ソフトがインスト ールされていることに加え、スキャナーとフィルムスキャナーと接続しているため、生徒に占領され、授業中には、僕はほとんど教師用Macに触らせてもらえなくなってしまった。生徒たちはデジカメやスキャナーで読み込んだ画像を素材に画像ソフトを活用して僕の想像外のCG画像を創出していた。場面の変化や挿入されている文章・書体、ストーリーにあった選曲。いいじゃないか。生徒たちは皆、アーティストだ。僕は、いままで授業中に彼らの一部分しか理解していなかった。

そうこうしているうちに生徒の中にN君という素晴らしい教師を発見した。N君は、Macに関して全てにおいて僕を上回っていた。自分のグループの作品制作の合間をぬって、他生徒からの呼びかけに即座に駆けつけ、相談に対し速攻でマウスとキーボードを操作し、レスキューしてゆく。さらに同じ質問をされて自分の制作時間を取られないように丁寧に周りの生徒たちにもレクチャーしていた。すばらしい。僕は、いつの間にかN君の密着取材をしていた。N君の背中越しにN君のすることなすことを目を凝らして覚え、N君が立ち去ったあと、すぐさま「ちょっと、わしがやっちゃろ〜」と知ったかぶりっ子をしながら、生徒の作品をぐちゃぐちゃにしながら技を覚えていった。その責任を取るというわけではないが、気がついたら僕は放課後、教師用Macで生徒の注文に従い画像を加工し、音楽を貼りつけるといった生徒の作品制作の下請けに熱中していた。Macに接続するスピーカーも自腹で買っていた。僕も生徒の制作グループの一員に加えてもらったのだ。

かくして一ヶ月があっという間に過ぎ、研究授業後の研究協議会の輪の中には、他校のCG反抗期の美術科教師を真剣に諭す僕がいた。
 

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