デジタル表現研究会
D-projectとは? D-allメーリングリスト サイト検索 ホーム
D-project
D-projectのあゆみ
メディア創造力を育成する実践事例
ワークショップ
ユネスコプロジェクト
教材作成
調査研究
カリキュラム検討
ネットdeカルタ
卒業アルバム作成
先生の道具箱
全国に広がるD-project
D-project アーカイブス 中・高では今…
1 2 3
 
中・高では今
 
情報教育のスタートとともに、日本中のあらゆる学校で、これまでの教育の流れだけには収まらない、さまざまな取り組みが試みられている。慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部は、そんな潮流の中でも、慶應義塾という大きな伝統を抱えつつ、中学校・高等学校を一貫教育するという独自の視点のもと、これからの社会に対応していける子どもたちを育てるべく、新たな教育モデルを構築しつつある学校だ。どんな教育哲学やビジョンを持って、これからの「教育」と向き合っているのか。慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部部長の渡辺秀樹先生と、教科「情報」を担当されている田邊則彦先生にお話をうかがった。
こちらの学校では、六年一貫教育を行っていらっしゃいますが、その特徴、長所といった辺りからお話いただきたいと思います。
渡辺秀樹先生
部長 渡辺秀樹先生(わたなべ・ひでき)
渡辺秀樹(以下、渡辺):まず申し上げたいのは、慶應義塾の一貫校の特徴は、 合わない生徒をどんどん落としていくといった、いわゆる削ぎ落とし型ではなく、合流型だということです。つまり多様な人間が出会って、それぞれの違いを気づかせるところに意味があると考えています。
 本校には幼稚舎から上がってくる子もいれば、三田の中等部、日吉の普通部それぞれから入学してくる子たち、さらに帰国生など、実に多様な背景を持つ生徒たちが集まってきます。そうするとランチの食べかたひとつ、仕草ひとつ、教員との接しかたや会話などもさまざまなわけです。
 そういった違う人間が集まることによって、異なった考えかたや見かたを発見することができ、生徒ひとりひとりの考えかたの選択肢を広げてあげることができる。生徒も自分で自分の考えかたを築き上げていくときの材料にすることができる。さらには自立的な考えかたをすることができるようになる。
ですから六年間一貫教育の主眼としている点は、閉じこめて同質な人間を育てるのではなく、それぞれの個性を重視して育てていくことです。同質化を防ぐ仕掛けを学校としてもいくつも用意しています。
それによってどんな人間を育てていきたいとお考えなのでしょうか?
渡辺:21世紀の国際社会で活躍できる人間を送りだしたいと思っています。21世紀の国際社会というのは、まさに異質な人間同士が出会う、異文化との出会いの社会だと思います。そこでいかにして自分をきちんと説明、表現し、論理的にコミュニケーションを図るか。異質な考えかたとどう折り合いをつけ、合意を図るか。そういった経験を、学校にいる間から積んでいってほしい。
 自立的な人間というのは、自分自身をきちんと表現できなければいけませんよね。そう考えると、たとえば生徒たちが学校で教わる英語や情報なども、その自己表現力としての英語や情報だと思うのです。だから情報の授業でも、メディアリテラシーを含めいろいろなマナーやルールなども、自分で作り上げていくように学習し、そういった部分に強くなれるよう配慮しています。
こちらには、模擬国連(Model United Nations)というユニークなプログラムがありますが、これも自己表現力を身に付けていくための一環と。
渡辺:ええ、そうですね。六年生(高校三年生)になると行うものですが、この模擬国連では、世界のそれぞれの国の状況を理解し、それぞれの国の立場から、たとえば環境問題や政治に関することなどテーマを決めて行っています。
 今年のテーマは「貧困」です。生徒自身がその国のことをよく調べ、国の代表者という役割を通じて、自立的に発言するわけです。六年間それまで学習してきた、英語の力を発揮する場面でもあります。
子どものときから、世界と向き合っていくわけですね。
渡辺:たとえばこんなことがあります。私も「ゆとりの時間」といったカリキュラムの中で講座を持っているのですが、時々、生徒に対して“我が校にはいろいろな人間がいるよね”といった話をします。“そのいろいろな人間同士で、あっちが駄目だとかこっちがいいとかいうのではなく、なるほどこういう見かたもあるのかと尊重し合うことによって、それを自分独自の判断に活かし、考えかたを築き上げる選択肢にすることができるんだ”と。
 そうすると早速、生徒から私のところにメールが入ってきます。
 『先生、われわれ生徒の間ではこういう会話がよくあります。A君>キミってヘンな奴だな。B君>キミに言われることじゃないよ。そうするとまわりがワハハと笑います。ウチって、ヘンな人間ばかりが集まっていますね』
 つまり生徒間でも、それぞれに個性的であることを認め合っている。
生徒から、直接、校長先生にメールが届くわけですか?
渡辺:はい。それにメールもそうですが、六年生とは全員と、直接話をする機会も設けています。
随分とオープンな校風とお見受けします。
渡辺:この湘南藤沢では、教員室にもどんどん生徒が入ってきますよ。だから教員室はいつも雑踏(笑)。校舎の造りも“出会いの場”をテーマにしたロビーを設置したり、コミュニケーション重視のコンセプトで造られています。とにかく、教員と生徒のコミュニケーションの距離が近いということは言えるでしょうね。
 もちろんすべてが理想ばかりで動いているわけではなく、いろいろな悩みもあります。けれでも、帰国生などがまわりに馴染めなくて悩むといった話は聞いたことがありません。ここでは、画一的に締めつけるようなことはしないんです。だから我が校は、子どもたちには生きやすい社会だと思います。そういったおおらかな校風なんです。
next
D-project アーカイブス 中・高では今…