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授業報告【第2回】
パンフレット研究をする

授業のねらい

いよいよPhotoshop Elementsのパンフレットベータ版を作ります。ベータ版というのは、クライアントから評価、感想、意見を得ることを目的として作る第一次案のことです。今回は、広告のプロから直接子ども達がパンフレット作りのノウハウを教えてもらいます。とりあえずはじめは子ども達の自由な発想でパンフレットを作り、それをプロの視点で「ここがダメ!」とはっきり指摘してもらうことにしました。

最近、総合的な学習の評価の重要性が叫ばれるようになりました。総合的な学習は通知票による評価がありません。そのため教師は、総合的な学習における子ども達の成果物に対して、「まぁこれぐらい出来たらいいだろう・・・。」とそこそこの線で評価してしまうことがあります。子どもの側も「テストもないし、この程度でいいか」と甘い自己評価をしてしまいがちです。妥協を許さずとことんまで子どもを追いつめようとしても、その学習に対してよほどの切実感、必要感がなければ子ども達はついてきません。ところが、このホンモノパンフレットの取り組みは違います。成果物であるパンフレットの評価は、教師ではなくクライアントが行います。パンフレットの善し悪しは直接企業の利益につながるので、甘い妥協などありえません。子ども達もそのことを理解しているので、切実感も十分あるというわけです。そのため、プロジェクトコーディネーターの中川先生はあらかじめ打ち合わせの中でアドビの北川氏に対して、ベータ版ができた段階で一度子ども達に厳しくダメ出しをするように依頼されたのでした。

授業の様子
今回子ども達が請け負ったパンフレットは、全4ページ(A5サイズ)です。このベータ版では、表紙以外の2〜4ページを作らせることにしました。全ページを一気に作らせるのは、ハードルが高すぎると判断したからです。

 
A4紙上にラフスケッチ  
まず班ごとに、A5用紙にラフスケッチをしていきました。見出しを「作品名別見出し」(例、ポスターも作れるよ!)、または「機能名別見出し」(例、画像合成もできる!)のどちらにするかは、話し合って決めさせました。また前回作成したパンフレットサンプルのうち、どの作品を掲載するかも相談させました。Photoshop Elements の魅力を、最も伝えることができると思うサンプルを選ぶように指示しました。パンフレットサンプルは、縮小版を印刷して各班に配りました。子ども達はそれをA5紙上に置いて、レイアウトを考えていきました。

ラフスケッチをもとにコンピュータ作業
ラフスケッチができると、今度はコンピュータ作業です。各班2台ずつコンピュータを割り当てました。これまでの活動を通して、子ども達はPhotoshop Elementsの操作にだいぶ慣れてきたので、ベータ版を作る活動ではそれほどつまずくことはないだろうと予想していました。ところがいざ始まってみると、一つの班だけなかなか作業が進まないのです。あかねちゃんがいる4班でした。よく見るとあかねちゃんだけでなく、どの子の顔も暗く沈んでいます。しばらく観察してみると、どうやらコンピュータ作業ではなく、班の中の人間関係がその原因のようでした。ここは担任の山田教諭の出番です。彼女にこの班の子ども達と一度話し合う機会を持って、問題解決するよう依頼しました。そしてのちほどこの件について、報告を受けました。実はパンフレットデザインをめぐって男子と女子の意見があわなかったのが、作業停滞の原因でした。パンフレット作りに対する思いの強さも、メンバーの間でズレがあったようです。特にあかねちゃんは、「こんなデザインにしたい!」という強い思いを持っていました。その妥協点を見いだすことができないまま、最初に無駄な時間が流れてしまったというわけです。学級担任とともに話し合いの時間を持ったのは大正解でした。班の中のそれぞれの役割分担をもう一度決めなおしました。この話し合いでお互いのパンフレット作りに対する気持ちを確認しあうこともでき、なんとか解決することができました。

3班には、つばさ君がいました。この班は、つばさ君が登場する自己紹介カードをメインサンプルとして使うことにしました。つばさ君はこのカードで、自分の目を炎にした点にこだわりました。そこをしっかり伝えるために、目の部分だけ拡大した画像も貼り付けて強調しました。

すべての班がパンフレットベータ版を完成させるのに、約3時間ほどかかりました。4班はスタートに出遅れたので、4ページ目ができませんでした。見出しはすべての班が「機能別」にしていました。パンフレット作りは班対抗のコンペティション形式で行うので、ベータ版が出来た時点での相互評価はしませんでした。また正直言って、どの班のパンフレットにも稚拙な表現が目立ちました。文章やレイアウトの統一感に欠けるもの、また説明がたりないものが多く見られました。でもこの部分の指導は、アドビの北川氏の役割です。だからあえて細かい指導は入れずに、そのままにしておきました。
 
では、パンフレットベータ版をご覧ください。
(クリックすると、それぞれのパンフレットベータ版をご覧いただけます)
 
1班
2班
3班
4班
5班
6班
 
パンフレットベータ版は、完成してすぐに北川氏と中川先生に送りました。あらかじめ評価しておいてもらうためです。そしてこのあとお二人をお迎えして、初めてのクライアントプレゼンテーションをしました。
 
担任のつぶやき
  2時間目終了後、山本教諭から4班の様子がおかしいと聞きました。そしてその日の給食時間。ささいなことで、口げんかが始まり、ひとりの女の子が泣きながらわたしのところへやってきました。あかねちゃんでした。
「Aさんと考えが合わへん。もう、いやや。」
かなり頭にきているようです。
(めずらしい・・・。いつも仲がいい2人なのに・・・。)と思いながら原因を聞いてみると、給食のきまりを守る守らないで、もめているということでした。Aさんは、パンフ作りでもあかねちゃんと一緒の班です。もしや・・・と思い尋ねてみました。
「そんなこと、泣くほどのことじゃないよ。もっと他に理由があるのと違う?」
「・・・うん。パンフ作るときだって意見が合わへんし。」

(当たった・・・。)
やはり、2時間目のことを引きずっていて、とうとうその思いが爆発してしまったようでした。
担任の目から見ていても、4班はまず男子と女子との思いがぶつかりあって、もめにもめていました。作るページを分担していましたが、お互い譲らないのでデザインに歩み寄りがなく、ばらばらな感じになっていました。その上、今回女子の中でももめてしまったのでした。こんなにもめるのは初めてのことなので、さすがにわたしも不安になり、山本教諭に話をしました。
「山本先生、こんなことでもめています。どうしましょう?」
「ぶつかりあうのはいいよ。前向きに取り組んでいる証拠だし。でも、その結果がよりよい作品に結びつかないと意味がないなあ。」

(なるほど・・・。)
結局、4班だけの話にせず、クラス全体でこのことについて話し合いました。もめることは当たり前であり、みんなの思いが前向きだからこそもめるのだということ、また男子も女子もそれぞれの思いを大切にすること、などを確認しました。
これ以降、きしんでいた歯車がまた少し動き始めたように感じました。

 
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