デジタル表現研究会
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授業報告【第2回】
パンフレット研究をする

授業のねらい

前回のクライアントプレゼンテーションで、子ども達はアドビの北川氏から全てのパ ンフレット案の不採用を宣告されました。さすがに子ども達も大きなショックを受け ましたが、それに負けずに修正(=ブラッシュアップ)作業に入りました。ここでは 社会の厳しさを疑似体験させた上で、さらによい作品作りをめざす向上心や持続力を 身につけさせることをねらいとしています。金沢大の中川先生はこの取り組みの中 に、子ども達のブラッシュアップ力を育てる場面を埋め込むことの大切さを最初から 強調されていました。

ブラッシュアップ(brushup)の直訳は「磨き直し」です。自分の企画やアイデア、作品を自己評価、外部評価をもとに練り直して完成度を高めていく作業のことです。競争が激しいビジネス社会では当たり前の作業です。厳しい社会を生き抜く力として、子ども達にも身につけさせる必要があるはずです。にもかかわらず、このブラッシュアップという言葉は学校現場ではあまり耳にしません。その背景には、これまでの学校教育における学習作業が、主として紙をベースに行われてきたことが挙げられると思います。例えば、図工の水彩画のように画用紙に描くものは、一度仕上がったものを大幅に修正するのは難しいです。また原稿用紙に作文をびっしり書いたあとで大きな修正をしようとすると、消しゴムで根気強く消していかなければいけません。修正した文章を原稿用紙の細い行間に赤鉛筆で書いていくという方法もありますが、これだと最後に一から清書し直すことになります。いずれにしても、子ども達は相当抵抗を感じます。またブラッシュアップ作業には、ある程度の時間を子ども達に保証する必要がありますが、融通がききにくい教科学習の授業時間内にはそれも難しいです。このような学校現場の事情が、子ども達からブラッシュアップの機会を奪ってきたように思います。

ところが、学校教育のデジタル化および総合的な学習の時間により、このブラッシュアップ力の育成がしやすくなりました。コンピュータを使って子ども達が何かを表現する場合、途中で修正したくなったらアンドゥー(※1)やヒストリー(※2)といった機能を使って、数段階前まですぐに戻すことができます。原稿用紙を消しゴムの跡で真っ黒にする必要はないというわけです。これはデジタル表現の最も大きな優位性の一つです。また総合的な学習の時間では、単元開発やカリキュラム作成は各学年の教師集団、または各学級担任に任せられます。これは教科書にしばられる他の教科学習と違って、時間の使い方の自由度が高いことを意味します。「ここでブラッシュアップさせることが子ども達の力を飛躍的に高める!」と担任が判断すれば、予定を大幅に変更することも可能なのです。また、あらかじめ担任が、ブラッシュアップの時間を見込んで計画にいれておくこともできます。このように、これからは総合的な学習の時間などをおおいに利用して、子ども達のブラッシュアップ力を高める取り組みが重要になると考えます。

授業の様子
  3分5秒  
  DSL用(High)  
  ISDN用(Low)  
1班のリーダー ちかちゃん
クライアントプレゼンテーションで、ダメだしをされた子ども達。そのショックの受けようといったらありませんでした。なぐさめの声をかけるのもためらうほどでした。1班のちかちゃんも大きくショックを受けた一人です。彼女は、班の中ではリーダー的存在です。クライアントプレゼンテーションでもプレゼンテーターとして発表しました。ちかちゃんは、どうしても自分の班のパンフレット案を採用してほしいという気持ちでいっぱいでした。毎日寝る前にベッドの中で、「どうして選んでもらえなかったんだろう?どうしたらもっとよくなるかな?」と考え続けました。朝登校するときにも、同じ班の友達とパンフレットの改善策について話しながら来ることがたびたびありました。お母さんにも、1班のパンフレット案を見せて相談しました。お母さんは「画像や説明文の順番をもっと見やすく並べ替えたら?」とアドバイスをしてくれたそうです。

さて、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。最終プレゼンテーションに向けて、ブラッシュアップ作業をはじめました。まず子ども達には、パンフレットベータ版に対する北川氏の評価をまとめたプリントを配りました。それを元にして、自分達の班の作品には何が足りないか、どう修正すべきかを話し合わせました。どの班でも「デザインが今ひとつ」「もっと先生を引き付ける工夫が必要」などの意見が出ていました。しかし、この先生に対する訴求という課題がもっとも子ども達を悩ませました。ふだん先生の立場にたって考えるなんてしたことがないからです。どうすれば学校の先生が買いたくなるようなパンフレットにできるか・・・。この答えがなかなか見つかりませんでした。でも話し合いを進めるうちに、子どもらしさ学校らしさを前面に出すと先生が引き付けられるのではという風に考えるようになりました。

そしてこの話し合いの結果、次のような方向性が見えてきました。

中身の見出しはPhotoshop Elementsの機能名で分けるのではなく、作品の種類別にしたほうがよい
サンプルの作者の顔写真とコメントものせた方がよい
機能説明をもっとくわしくする
表紙にも子どもの画像を入れる

これらの話し合い結果をもとに、それぞれの班で修正作業に入りました。紙上での修正検討ができた班から、コンピュータ作業に入っていきました。Photoshop Elementsではテキストや画像などの各パーツは、それぞれ別のレイヤーとして管理されているので、あとから一部だけを修正することがかんたんにできます。またテキストや画像の大きさ、レイアウト変更もドラッグだけでできます。まさにデジタル表現ならではです。ベータ版が見る見るうちに修正されていきました。ちかちゃんのいる1班では、アイキャッチ(※3)のために環境ポスターなどのお気に入りのサンプル画像を大きくレイアウトしました。これでメリハリあるレイアウトに変身しました。2ページ上部には、色鉛筆の画像をはりました。色鉛筆画像で学校らしさを伝える作戦だそうです。

2〜4ページの修正と平行して、表紙デザインにも入りました。表紙には読み手をぐいっ!と引き付けるキャッチコピーが必要です。それまで教室の掲示板やインターネットの電子掲示板にみんなで寄せ合ったコピーアイデアの中から、班ごとに一つ選ばせました。「子ども心でオリジナル」「遊び心でたのしもう!」など、学校の先生が引き付けられそうな子どもらしいキャッチコピーが選ばれていました。また全ての班が、表紙に自分たちの写真をレイアウトしていました。ちかちゃんの1班は、自分達がコンピュータに向かっている画像を使いました。みんなとってもいい表情をしています。ちかちゃんはこの表紙画像についても、お母さんから「カメラを構える位置を工夫して!」とアドバイスを受けたそうです。これにより、さらに子どもらしさが伝わる表紙になりました。このようにパンフレット最終案には、学校の先生を引き付けるさまざまな工夫がほどこされていきました。

各班の修正作業が一段落した時点で、相互評価の時間もとりました。お互いのパンフレット案に対して、意見を書いた付箋紙を貼っていきました。それを受けて、さらに手直しする班もありました。結局、修正作業は最終プレゼンテーション直前まで続きました。この間、子ども達は大変な生みの苦しみを味わいました。しかし、ホンモノパンフレットとして採用してほしい!という切実感が、最後までねばり強くがんばるエネルギーとなりました。

付箋紙で相互評価
では、出来上がったパンフレット最終版をご覧ください。
(クリックすると、それぞれのパンフレット案をご覧いただけます)
 
1班
2班
3班
4班
5班
6班
 
(※1) アンドゥー・・・アプリケーションの操作中に実行した操作を取り消して,直前の状態に戻す機能。段階をさかのぼって複数の操作を取り消すことができるものもある。
(※2) ヒストリー・・・アプリケーションで行った操作などの履歴のこと。
(※3) アイキャッチ・・・人目をひく意図で,画像等を目立つように大きくレイアウトすること。
 
担任のつぶやき
  わたしには,ダメ出しを受けた瞬間の子ども達の表情からは,彼らがどういう気持ちになっているのかが読みとれませんでした。教室へ帰ってからも,何と子ども達に声をかければよいのか全く分かりませんでした。それくらい,子ども達の感情がよめなかったのです。結局,この日子ども達全員の前で,この結果については何も特に話をしませんでした。けれども,わたしは,子ども達の正直な気持ちが知りたくて,その日の放課後何人かたまたま残っていた子ども達に,おそるおそる聞いてみました。
担任「どうやった?ショックやった?」
児童「うん。ショックやった。」
児童「でも,仕方ないと思った。」
担任「何で?」
児童「だって,ちゃんとそろってないとこ(見出しなど)もあったし,ちゃんとできてないとこもあったもん・・・。」
その場にいた子ども達は,とてもショックを受けているものの,北川さんの言うこともよく分かる・・・といった感想を聞かせてくれました。
そして,パンフのことに全く触れず1週間がたちました。全速力で走った子ども達の気持ちが落ち着いたのを見計らって,子ども達に切り出しました。
「この間,ダメって言われてしまったんやけど,みんなこれからどうしたい?ここで,全員の気持ちを聞かせてほしいんやけど・・・。」
(もし,子ども達がもうやりたくないって言ったらどうしよう・・・。どうやってフォローしよう・・・。)
内心どきどきしながら,子ども達に聞いてみました。
「北川さんにアドバイスされたことを直していきたい。」
「もう一回ちゃんと直して,もっといいパンフにしたい。」
そんな前向きな気持ちが全員の口から出てきました。
(は〜良かった・・・ちゃんと立ち直ってくれた・・・)
とにかく,ほっとしたというのがわたしの正直な感想でした。
 
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