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Vol.1 アーティストから見た日本の情報教育  1 2 3
 
各校に1人、情報コーディネーターを配置する
連画というスタイルが、今度は一見、デジタルな手法とは異なったイメージの『カンブリアン・ゲーム』に発展した理由について教えてください。
 
  カンブリアン・ゲーム
  D-projectの精鋭メンバーとともに行われたカンブリアン・ゲーム。「dD」のキーワードからスタート、さまざまな抽象・具象のイメージが枝葉を茂らせていった
安斎:表面的な理由としては、連画がどんどんメカメカしてきたというか、機材や装置的に大掛かりで大変なことになってきたという点ですね。一度リセットしてみようかと。ポストイットを使って、ポストITだね、と(笑)。
 確かにこれまであまりにもいろんなことをやり過ぎて、焦点がボケてきたとも言えるんです。もっと簡単に、メッセージをパッと投げ込むと、それがパーッと響いていってどんどん爆発していくようなものはないのだろうか。カンブリア時代に生物が多様に広がっていった、あの爆発と同じようなシステム……。簡単な構造だけれども、爆発が体験できる、そういうシステムはないかなと考えたわけです。
 
中村:10年間、デジタルで描くことや相手とコミュニケーションする技を、連画という考え方を通して鍛えてきたからこそ初めてできるやり方とも言える。それにこのカンブリアン・ゲームを紙の上でやった人が、じゃあ今度はこれをデジタルの上でやってみようとなるかもしれない。この手法自体、実はデジタルな発想かもしれないし。

安斎:デジタルの本質は、実は電気技術とは違うところにあるんだよね。
 
カンブリアン・ゲーム カンブリアン・ゲーム
思いついたイメージを描きしるす葉は、75mm四方の付箋紙。ほんの15分間の短いセッションにも関わらず、イメージの連鎖が瞬間沸騰した
 
最後にアーティストの立場から見て、今後、学校の中での教育は、どういったことが行われるべきだと思いますか?
 
安斎:これまでの決まった教科、パラダイムの枠を外して、一度、人類の歴史の中で必要なものを、あらゆる順番で考え直してみる必要があるかもしれない。

中村:そうすると最初は、料理かな?

安斎:最初は家庭科。それに国語と美術。つまり図形で考えること、言葉で考えること、それから生きるための技術。そういったものが非常にベーシックな部分にあると思う。その後に、理科、数学……。そういう風に考えていくと、現在の図工教育は“クラフト”になってる。美術教育というのは本来そういうものではなくて、もっといろんな思考の「種」になるんだということを認識したほうがいいと思います。

中村:中学を卒業して、それまでの義務教育に退屈してくる時期になったら、その後4年間くらいは美術学校に行って、彫刻をやったり油にまみれたり、陶器やテキスタイルをやったりすればいいんじゃないかな。読み書きの義務教育が終わったら、実学に対しての虚学。その虚の部分をもっときちっとやったほうがいい。また必要なら実の部分を、学べばいんじゃない。要は、バランスだと思うな。

安斎:カタチやビジュアルを使って考えたり、カタチとカタチの相関を見つけたり、あるいはカタチを通して人とコミュニケーションをとったり。そういったビジュアルなリテラシーを培う学問、教育のシステムがあっていいと思う。100年前から続いている教育スタイルは、そろそろガラッと変えてしまったほうがいいのかもしれないね。

中村:知識を詰め込むだけなら、これからの時代は、ネットワーク上の教育システムだけでも補えるかもしれない。けれど学校に行って学ぶことや、仲間と一緒にある時間、そういった「場」を持つ時の必然性って何?ってことだよね。そこで誰かに会わないと始まらないこと、勉強し合わないといけないこと。その「場」だからこそ行ってやることの、切実な意味を考えたほうがいいかもしれないね。

安斎:つまり、繋がりを学ぶべきなんだ。
 
インタビュー風景
 
安斎利洋(あんざい・としひろ)
1956年東京生まれ。メディア・アーティスト、ソフトウェアエンジニア。1987年、(株)サピエンスにてCGペイントシステム「スーパー・タブロー」を開発。「MANDELNET」(1986)「てれめちえ」(1991)などネットワークとアートの結合に関心をもち、セルオートマトン等を応用した数理的な作品(Ramblers 1993など)も発表し続けている。また1992年から開始したコラボレーションアート「連画」は、国際的に高い評価を得、その活動はさらに進化増殖の一途を辿っている。マルチメディアグランプリ'95ネットワーク部門アート賞など受賞多数。

中村理恵子(なかむら・りえこ)
1958年北海道生まれ。メディア・アーティスト。1989〜1992年、マスターネットにて電子ネットワークのBBSを中心にしたサイバースペース上のコミュニティ構築に関わる。1992年よりインターネットとコンピュータ・グラフィックスを使ったコラボレーテッドアートの試み「連画-Linked Image-」の創作を開始。「ネットワークシアター連画座」「夢鍋」「Moppet連画」(1996-1997)、「天体作図機MAGIC KEPLER」(1998)などを次々に発表する。'95年第1回情報文化学会賞大賞、マルチメディアグランプリ'95ネットワーク部門アート賞受賞など、作品は国際的に高い評価を得ている。
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