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Vol.2 アートディレクターから見た日本の情報教育  1 2 3
 
最近のデザイン教育や美術教育、また情報教育についてはどのように見てらっしゃいますか? 子どもへの情報発信という部分では「THEドラえもん展」にも参加されていますが。
 
佐藤氏横顔
佐藤可士和氏
佐藤:クリエイティビティが重要だと思います。

たとえば会社経営だって、人のやっていないビジネスをやろうとか、クリエイティビティがないと駄目ですよね。そういう意味では、社長はクリエイティブディレクター。ソニーのような大会社や銀行、それに政治家や国もクリエイティビティがないと成長しない。

だって法案だってアイデアじゃないですか。だから官僚だって創造性がないと前に進めない。学者になるにしても、クリエイティビティがないと新しい発見には繋がっていかない。そういった、大切なクリエイティビティの芽を摘んでしまうような教育だけは、止めてもらいたいと思っています。

個人的な経験になりますが、小学校時代と中学校時代の美術の先生の違いを、僕は痛烈に感じたんです。小学校の先生はけっこういい先生でした。ピカソっていうあだ名で(笑)。その先生は、僕が自由に描くものをとても誉めてくれて、「何やってもいいんだよ」というようなことを言っていました。

で、中学校に上がったら、そこでの美術の先生はマニュアル通りの教えかたで、子どものクリエイティビティを制限するような教育だった。もう中学一年くらいで、真剣にこの先生はダメだなと思った。言ってることもツマラナイことばかりだったし、喩えて言えば、ファーストフードのマニュアルに書いているような文章を喋っていた。
 
クリエイティビティがないと新しい発見には繋がっていかない
 
だからコンピュータの教育に関しても、ある面では危険だと思っています。このソフトはこうやって使うものだとか、Illustratorなどでも、これはこうして絵を描くものだとか。そういった決めつけは止めたほうがいい。Illustratorでエディトリアルをやってもいいわけだし、アニメーションを作ってもいい。同じようにPhotoshopも写真を扱うだけじゃなくて、それを使ってグラフィックデザインをやってもいいわけだし、編集ソフトを使ってポスター1枚作っちゃってもいい。

それにもしかしてすごい才能のある子だったら、根本的なプログラムを開発しちゃって、もっと新しい何かを作ってしまうかもしれない。そういうことを制限しちゃいけないんだと思うんです。
 
むしろ、そういうことも学校の中ではありなんだよと…。
 
佐藤:そうだと思いますね。だってプロになってからだと、道具に使われちゃう人は駄目ですよ。固定概念に縛られてしまうと、発想が煮詰まっちゃうし。

そういうところの制限の無さという部分を、教育でしっかり教えないといけないと思います。人間の発想に制限はない。自由なんだよ、と。それを教えてもらわないともう真剣に(笑)、日本は滅びると思う。そこを僕はかなり心配していますね。
 
わかりました。では最後に、今後の展開について教えてください。
 
佐藤:実は今、“建築”をやろうとしているんですよ。というと、大袈裟に聞こえるかもしれませんが。ワールドのOZOCという若い女性向けのブランドがあって、そのクリエイティブディレクターをやっているんです。で、そのプロジェクトでは、お店自体を広告として考えています。広告建築というような概念で。
 
広告建築。これはまた新しい考えかたですね。
 
ハラジュク・アドバタイズメント・アーキテクチャー・プロジェクト
Harajuku Advertisement Architecture Projectでは、原宿の一画にアッと驚くような、真っ赤な“広告建築”が登場する
佐藤:ハラジュク・アドバタイズメント・アーキテクチャー・プロジェクトというネーミングで、略称はハープ(HAAP)。このプロジェクトではすべての広告戦略を通じて、最大のメディアが建物になります。

この大きなプランを考えてから、媒体に使う写真をカメラマンに頼むような感覚で、建築媒体を建築家に頼むことにしました。一ヶ月間だけの建築物で、キャンペーンが終わると同時に、建物も次のものに生まれ変わるという仕掛けです。また建築物の壁面をただ媒体にするのではなく、もともとの建物自体をメディアとして捉えているので、僕としては極生のように、パッケージデザインとしてやっている感覚もあります。

というのも、スマップのデザインやキャンペーンを手掛けて、プロダクト自体がメディアになっていくということを実感したためです。CDジャケットなどについても、これを売るんだけど、それ自体が広告物になっていくといった。そういうことが確信できたので。
 
そういった「次はコレが当たるな」といった確信。そのタネの発見は、どういったところから?
 
佐藤:正直に言えば、カン(笑)ですね。直感です。じぶんがコレはオモシロイなとか、いいなといったものは、たぶんみんなも同じ感覚で受け取ってくれるだろうと思っています。

でもその直感を生んでくれるのは、日常の過ごしかたにかかっている。そのなかで、どれだけクリエイティビティを育てているかということに、他ならないと思います。
 
仕事場
 
佐藤可士和(さとう・かしわ)
1965年東京生まれ。クリエイティブディレクター、アートディレクター。1989年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒、博報堂入社。2000年同社を退社し、クリエイティブエージェンシー「サムライ」を設立。主な仕事に、本田技研工業ステップワゴン、インテグラ、プレリュード、キリンチビレモン、キリン発泡酒 極生、資生堂5S、TBC 木村拓哉キャンペーン、パルコ企業キャンペーン、スマップ、森高千里、Hi-STANDARDなど。商品開発から広告キャンペーンまで幅広いジャンルで、強力なグラフィック力によるトータルなクリエイティブ活動を展開、高い評価を得ている。第4回亀倉雄策賞、東京ADCグランプリ(共に2001)、東京TDC金賞(2000)、日本パッケージ大賞金賞(2000)、ニューヨークフェスティバル銀賞(1999)ほか受賞多数。東京ADC、東京TDC、JAGDA会員
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