学校の近くに美術館がなかったり、また近くにあっても週に1時間の中学校美術の授業では、外に出て実際に本物の作品を鑑賞することがだんだん難しくなってきました。そこで私は富山県立近代美術館と近くの太閤山ランドをセットにして、中学校の遠足コースを企画しています。
富山県立近代美術館の常設展「20世紀の美術の流れ」は作者の意図やいろいろな視点に気づくことができるすばらしい作品がそろっています。生徒たちは今まで接したことのない抽象的な表現の世界の垣根をいとも簡単に乗り越えて、作品と向き合うことができます。
生徒だけでなく学年の先生方にも鑑賞の良さを知ってもらおうと、美術の授業でしていた事前学習を今年は総合的な学習の時間の中で行いました。プレゼンソフトを使い、まず、「どれがピカソの絵でしょう」と3択のクイズから始めました。(実は全部ピカソの作品なのですが・・)次は、マグリットの足が描かれている作品をみて、みんなで題名をあてます。「俺の足」と生徒が考えてくれます。答えは『真実の井戸』。「えーっ。どうして!?」だんだん興味深々になってスクリーンに集中し、シーガルの彫刻の作り方、クリストのプロジェクトにみんな驚きの声をあげ、「早く本物を見てみたい。」と期待が高まって遠足を心待ちにしてくれました。
美術館では、作品を解説してくださる学芸員の方やボランティアの方がいるので 気軽に質問ができます。また、中学生のためのガイドブックや子供のための鑑賞カードも用意されていています。生徒たちは遠足当日、ステラの『タラデガ』の奥行きのある空間や、フォンタナの吸い込まれるような青に刻まれた4本の切れ目に心を奪われ、多様な表現とそれを作り出した人間の「心」に触れ、たくさんのことを感じ取ってくれました。そして、ゆったり床に座り込み、心に残った一枚の絵を軽く鉛筆でスケッチして、作品と静かに対話することができました。
学校に戻ってきて美術館のホームページを開き、「学校一日美術館」という企画を知り、「私たちの学校でも本物が見られたらいいな。」とつぶやく生徒をみていると、たくさんの子供たちに本物を見せたいという美術館の思いが伝わり、心が熱くなります。そんな魅力にあふれた美術館です。
レポート:加納知世(石川県 小松市立南部中学校) |