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Vol.3 プロダクトデザイナーから見た日本の情報教育  1 2 3
 
と言いますと?
 
  PCテーブル ELECOM
  PCテーブル(2001年)
ELECOM
   
岩崎:とにかく誉める。「あなたの名前は何ですか?」「イワサキ・イチロウです」。すると「おお、素晴らしい!」と拍手される(笑)。それを延々とやられていると、年甲斐もなくその気にさせられていく(笑)、教え方がプロだと感じた。

ただそれが出来る世界と、出来ない世界がありますよね。たとえば仕事の世界ではそういうことができないし、特にデザインの世界では、良くないものを誉めるわけにはいかない。

だからこそ学校などのそれ以前の段階で、誉めて育てていく、学んでいくといったことが、とても大事なことだと痛感しました。実際に仕事の世界に入ってしまうと、それが出来ないわけですから。
 
情報教育の世界では、コミュニケーション能力、とりわけ表現力の向上が掲げられています。すると先ほどの全部違うといった、アメリカンスクールの子どもたちの絵のように、たとえば、一様にすべてがポジティブな表現だけではなく、一見ネガティブに見える表現の中にも、創造性の種子が潜んでいるのかもしれない。コミュニケーションというものは本来そういったものだし、その部分をこれまで日本の教育はあまり見ないようにしてきたというか、拾い上げるのがどうも上手くなかったような気もしてきます。
 
岩崎:そう。仮にそういったネガティブな表現があったとしても、そこで生徒と先生の会話が生まれるし、それ自体何の問題もない。

プロダクトデザイナーの世界では、アイデアスケッチの段階ではとにかくいろいろ描かせて、いろんな道を歩かせてみるんです。何故なら歩けば歩くほど、たとえばこの道で正しいんだと自分に自信が持てれば、相手に対してもしっかりした説明ができる。反対に間違った方向に行った場合でも、それをこの段階で経験しておけば、後で誤った方向にみんなを誘導してしまう危険から回避できる。

プロダクトの世界ではデザイナーがキーパーソンになることが多いし、プロの世界の判断は正確にしていかなければならない。だからいろんな所を幅広く歩いていないと、いざポーンと外に飛びだしたときに、即座に判断できないということになるわけです。
 
 
コンピュータ環境でのデザイン教育についてはどう思われますか?
 
岩崎:コンピュータで描けるものは、そういったアイデアスケッチのようなことがかなり簡単に、素早くできるわけですが、絶対にこれを消しちゃ駄目ですね。全部、画面に残しておかないと。一杯になったらフォルダに保存して、また別の画面で続きを描いていけばいい。

どういうことかといえば、戻れるわけですよ。戻って途中の段階を見て、「コレは駄目だけど、こっちはココがいいんだな」とか、「この問題に突き当たっていけば、こっちの問題は回避できるな」とか、つまり戻ったり、行ったり来たり、そのプロセスがとても重要。その過程も見てあげるというのが、学校においてはとっても大事なことだと思います。

結果だけ見るのでは駄目なんですよ。その過程も見てあげて、結果は仮に間違っていても、その途中に良いものがあったねと誉めてあげれば、本人たちも気づきますよね。教育の現場では、結果に至るまでの間に子どもがどんなことを考えているのか、そこを見てあげなくてはいけないと思います。そのプロセスでの発想や、途中のアイデア展開が素晴らしいといった、それら全体も評価の大事な対象になるべき。
 
「表現」は、そのプロセス自体への優しい眼差しがなければ、表現力の向上には繋がらないということですね。
 
岩崎:そうだと思います。音楽を聴いても、そこで生まれる印象は、言葉が洪水のように流れてくる人もいれば、それが絵になる人もいますよね。そしてもし言葉だったら、その言葉を定規で測ったように方眼紙に埋めていくのではなくて、白い紙に自由に、好きに並べていくのでもいいじゃないですか。それもモノトーンだって、色がついていたって、思った通りの表現をすればいい。もちろん言葉じゃなくて、絵でもいい。
 
携帯電話:プロトタイプ KDDI
携帯電話:プロトタイプ(2001)KDDI
携帯電話デザインの新たな可能性を探る「au design project」の一環として製作。着信したらカシャッとスライドする、機能とフォルムが直感にダイレクトに訴えかけるインターフェース
 
そこまで広げてあげないと、個人の個性というものを拾い出すのは難しいと思いますよ。あまりにも間口を絞ってしまうと、そこでしか表現できない個性しか立ってこない。

それにコンピュータの中だけで、すべてを感じていくという方向も危険です。そればかりだと、間接的な体験ばかりになってしまいますから。子どもにとってやはりいちばん大事なことは、直接的な体験なんです。

たとえば何かを作る際に、モノを切るとします。間違って、指を切ってしまった。でもそこで初めて怪我をしたことで、切る道具についての怖さや、自分や他人に対する扱い方を覚えていくわけです。こういった機会まで、仮にコンピュータに置き換えようとして、そういったことも情報の一部としてわかったような気にさせてしまうとしたら、それは極めて危険なことだと思います。

花はどうやって育つのだろう。それはやっぱり情報ではなく、自分で小っちゃな種を手のひらに乗せてみる。その小ささを感じることから始まって、実際に土に触れ、埋めて水をやり、その生命力や強さや弱さ、枯れたり咲いたりといった儚さや美しさを、時間をかけて見て、感じなければいけない。

その感じたことが基本なのであって、プラスアルファもっと知りたいことや、他の過程や種類を知りたいというときに、はじめて間接体験が生きてくるのですから。
 
岩崎一郎氏
 
岩崎一郎(いわさき・いちろう)
1965年東京生まれ。プロダクトデザイナー。ソニー(株)デザインセンター勤務の後、渡伊。1995年イワサキデザインスタジオ設立。テーブルウェアなどの日用品から家電製品や情報機器など、プロダクト全般のデザインを手掛けている。Gマーク(グッドデザイン賞)等の審査委員を歴任。
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